セラミック材料
セラミック材料は、圧縮する力に対しては抵抗を示しますが、衝撃を加えると簡単に壊れてしまういわゆる脆性材料です。特に、緩衝能力のないインプラント上部構造に長石質ポーセレンを応用すると、チッピングや破折を起こすことはよく知られています。このことから、セラミックス単体でクラウンやブリッジに応用する場合は、この脆性材料の物性を強化する必要があります。具体的には「曲げ強さ」と「破壊靭性」(材料の粘り強さを表す)の向上であり、これまで分散強化、ガラス浸透、高密度焼結、ナノ複合化等の方法が試みられています。
1.ハイブリッドセラミックス
ハイブリッドセラミックスは、ハイブリット型コンポジットレジンとも呼ばれ、従来の硬質レジンに比べフィラーの含有量を多くすることで、機械的強度を向上させた材料です。そのため、レジン前装冠ばかりではなく、ジャケットクラウンやインレーなどのメタルフリー修復にも広く応用され、用いられています。従来の硬質レジンに比べて、曲げ強さは飛躍的に向上している反面、対合歯に優しい(軟らかさ)レジンの特性を残しています。このことから、最近ではインプラントの上部構造をはじめとする歯冠修復材料への応用が見直されています。
2.分散強化型ガラスセラミックス
分散強化型ガラスセラミックスとは、セラミック結晶をガラス層内に分散化することにより亀裂の進展を抑えることで強化を図っています。曲げ強さは長石質ポーセレン(曲げ強度約90MPa)に比べ約160MPaまで向上しています。また「empress max」の意を持つIPS e.max(CAD/Press)は、二ケイ酸リチウムを使用したガラスセラミックスであり、単体で360~400MPaの高強度を実現しています。
3.ガラス浸透型セラミックス
ガラス浸透型は、多孔質コア材料の空間にガラスを浸透させて強化させたものです。これまでにインセラムスピネル、インセラムアルミナ、インセラムジルコニアなどが臨床に用いられています。曲げ強さは、インセラムアルミナで約500MPaを示し、アルミナが主成分でジルコニアを約30%含有しているインセラムジルコニアにおいては約600MPa近くまでの高強度となっています。
4.高強度焼結セラミックス(CAD/CAMブロック)
高密度焼結は、高靱性・高強度のアルミナやジルコニアを高密度にプレスした状態で焼結することで、緻密なセラミックを生成したセラミックです。CAD/CAMシステムに用いられているアルミナ、ジルコニアのブロックがこれらに属します。ノーベルバイオケアのプロセナアルミナは、約600~700MPaの強度を持っています。
また「ホワイトメタル」と称されるジルコニアは、添加された安定化剤によりイットリア系とセリア系に分類されます。歯科で多く用いられているイットリア系ジルコニアは、多くのメーカーより販売されており、曲げ強さは約900~1300MPa、破靭性値は約6~10MPaと、長石質ポーセレンの約10倍近くの機械的強度があります。ISO規格ではクラウンのみならず4歯以上のブリッジにも応用可能となり、このジルコニアの登場は今のメタルフリー修復の発展に大きく寄与しています。
最近では、ZENOSTARなど高透過性ジルコニアが販売されるようになり、ジルコニアをフレームに用いるのではなく、ジルコニア単体のフルジルコニア、オールジルコニア修復が多くなりつつあり、欧米では既にこれが主流となってきています。
5.複合化セラミックス
複合化とは、異なった素材を組み合わせて合成されることにより、単体では得られない特性を実現しています。P-ナノZRは、セリア安定ジルコニア結晶内にアルミナ粒子が含有しており、アルミナ結晶粒内にもセリア安定ジルコニアが取り込まれた双方向ナノ複合材料です。これまでのイットリア系ジルコニア比べて、更に高強度と高い靭性を持っています。高強度のためフレームの厚みをメタル同様の0.3㎜の薄さにすることが可能となり、低温劣化の欠点も克服されるなど臨床的に大きなメリットを持っています。また靭性値が大きいため、クラスプや金属床など義歯への応用も試みられています。このような、セラミック材料の複合化による強化法は最近の1つの傾向であり、セラミック材料の強度改善はこれからも進んでいくことが予想されます。
6.高分子材料
セラミック治療をおこなう上で、土台柱となる支台築造が必要となることが多々あります。そのような場合、ジルコニアポストやファイバーポストといったポストが用いられます。
ファイバーポスト(FibreKor Post)は、グラスファイバー繊維と高強度レジンマトリックスを組み合わせたポストで、レジンセメント、支台築造用レジンと組み合わせることにより、歯質と強固に接着したメタルフリーの支台築造を行うことができます。
ファイバーポストのヤング率は29.2GPa(象牙質18.6GPa、チタンポスト90.3GPa、ジルコニアポスト123GPa)で、チタンポストやジルコニアポストと比べて象牙質に近く、残存歯質への応力集中が少ないのが特徴です。また曲げ強度が990MPaと強く、柔軟性と強度、審美性を兼ね備えたポストです。